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京子さんが教えてくれた <下> ver2.0

二十年なんて年月はあっという間だ。あんなこともこんなこともあった。成功もあれば失敗もあった。富める時も病める時もあった。人生なんてそんなものだと思った。とにかく色々なものを抱え込み、そして嫌気がさして我慢が出来なくなった。僕はラケットを沈めようと思った時と同じように同じ砂浜に戻ってきた。僕が当時と異なるのはあのころの夢だ。パドリングに夢を感じた心なんてとっくに借金のかたにとられていた。

波は常に海からまっすぐに押し寄せては来ない。東から吹く風が時折に波を斜めに押しやっていた。白い沫が無数に現れては消えた。そうだ、こんな沫みたいなものだ。小さく、あっという間に消えてしまうものだ。愛おしいだなんて言葉は陳腐だろう。瞬時に現れて気が付くと消えている。それが波打ち際の沫だ。僕は沫だ。


相変わらず間抜けな半島が霞んでいた。右側のあれも相変わらずだった。砂浜をあるくと砂がシューズに入り込んでくる感覚を得た。テニスシューズでは絶対に歩けないような場所だ。乾いた砂は濡れた砂に変わり堅くなっていく。それでも砂は細かく万遍なく塞いでいく。まるで心の余裕を一つ一つ丁寧につぶすように入り込んで塞いでいく。そんな感じがした。

つま先が波打ち際に来た時、靴が濡れ、靴下が濡れた。そして、砂の底に沈められていく感覚を足の裏に覚えた。膝まで海に浸かってみた。波が引いていく時、足首は砂に埋もれていった。くるぶしは完全に飲み込まれていた。引き潮の度に深く深く、底に向かい、足を埋もれさせていった。そう、これでいい。このまま埋まる。そして、終わる。それを求めていた。腿まで沈んだ時、脇を誰かがパドリングしていった。

昔と変わらないサーファーカット、化粧水だけで充分な顔、細い体を8.5フィートの板にのせて通り過ぎる。そんな真似を出来るのは京子さんだけだ。そして、京子さんだと確信させた声。

「ボ―ド無しで何をしているのよ」
長いまつ毛に砂をつけた京子さんが振り向いた。

「今度は人生を教えてあげる」
京子さんが言った。

砂浜に連れ戻され僕は京子さんに抱かられて泣いた。あの試合後と同じくらいに泣いた。そして、学んだ。

京子さんが教えてくれた。



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